香落ち 記事まとめ
2020/03/04更新
「香落ち」は将棋道場だと2階級差の手合いです。二枚落ちや飛車落ち、角落ちに比べると皆さんあまり馴染みのない手合いかもしれません。
このブログでは、香落ちの様々な戦型を(ざっくり)紹介?検討?しているのでもしよければ見てみてください。
<対抗形>
・三間飛車
・石田流
香落ち 石田流① vs▲2五歩 - 将棋 駒落ち 上達への道
・四間飛車
・中飛車
・一間飛車(△1二飛)
・3手目△5四歩(大野流向かい飛車)
香落ち 3手目△5四歩(大野流向かい飛車)① - 将棋 駒落ち 上達への道
・下手鳥刺し
・下手引き角
<相振り飛車>
香落ち 3手目△5四歩(大野流向かい飛車)③―相振り飛車 - 将棋 駒落ち 上達への道
<その他の戦型>
・右玉
・上手居飛車
以下雑談……。
「香落ち」と言えば、かの升田幸三が子どもの頃物差しの裏に「名人に香車を引いて勝つ」と書いてそれを実現したというエピソードが有名です。
今の時代、名人に香車を落とすというシチュエーションはありえませんが、現名人(※この記事を書いたときは豊島名人)が四段のときに香車を落とされたことがあるのを知っていますか?
今から10年以上前の将棋世界の企画で、「トップ棋士と新四段の指し込み2番勝負」が行われました。糸谷五段、豊島四段、稲葉四段ら後のA級棋士含む”6名”の若手棋士が香落ち下手で対局しました。
結果は香落ち上手から見て2勝4敗。名前を挙げた3人は全員香落ち下手で勝利しました。
その時の将棋世界がありましたら(将棋道場に置いてあるかな?)是非棋譜を並べてみてください。
ちなみに奨励会では「2階級差は香落ち」、「1階級差は平香交じり」(上位者から見て:振り駒で歩→平手、と金→香落ち上手)の手合いで行われます。
(※二段以下。三段は総平手戦の三段リーグ)
例えば二段と初段が対局するときは振り駒で平手か香落ちか決めます。そしてまた同じカードで両者昇段せずに当たったら前回と違う(平手なら香落ち)と手合いを交互に入れ替えるんですね。
「香落ちを制する者は奨励会を制す」なんて言葉があるくらい香落ちは重要なんですね~。
香落ち 上手・角道を止める中飛車
初手から
△3四歩 ▲7六歩 △4四歩 ▲2六歩 △5四歩 ▲4八銀 △5二飛
▲5六歩 △6二玉 ▲6八玉 △7二玉 ▲7八玉 △4二銀 ▲1六歩 △8二玉 ▲1五歩 △7二銀 ▲5八金右
上手は△4四歩と角道を止めるノーマル中飛車。
対する下手は舟囲いで双方自然な駒組みと言えるでしょうか。
・△5三銀~△6四銀型
△5三銀 ▲1八飛 △6四銀
△5三銀~△6四銀型の弱点としては34の歩が浮いてしまうこと。
しかし、すぐに▲1四歩△同 歩▲同 飛△1三歩に▲3四飛と取ると△3二飛とぶつける手があります。
以下▲同飛成△同 金となると下手陣は飛車の打ち込みの隙があるため、少しまずいかもしれません。
▲1四歩に代えて、一旦▲6八銀と上がり中央を手厚く構えるのも自然な一手。
上手は41の金を△5一金左とくっつけたいのですが、そうすると▲3四飛のときに△3二飛ができなくなってしまいます。
・△4三銀型
△4三銀 ▲5七銀
ここで△3二金と上がるのは「形」ですが、
△3二金 ▲2五歩 △3三角 ▲1四歩△同 歩▲同 香
シンプルに▲1四歩△同 歩▲同 香と仕掛けて下手が良さそうです。
△1三歩には▲同香成△同 桂▲1四歩と端を破れます。
香落ち △3五歩に▲5六歩 ~△3二飛からの乱戦~
△3四歩 ▲7六歩 △3五歩 ▲5六歩 △3二飛
△3五歩と石田流の出だし。下手の▲5六歩は振り飛車志向です。
上手が△4四歩と止めずに△3二飛と突っ張ってきた手に対し、下手も▲2二角成~▲6五角と打てば序盤早々激しい戦いになります。
この乱戦を検討してみましょう。
▲2二角成△同 銀 ▲6五角 △2五角
△2五角に▲4八銀などと受けると上手も△7二銀と受けられて下手が損です。
△2五角は43を守りつつ47の角成を見た部分的によくある手筋。
1)▲8三角成△4七角成と馬を作り合うか、2)一度▲2六歩と角を追う手が有力です。
2)▲2六歩は平手の定跡手順で以下
△4七角成 ▲5八金右△4六馬 ▲4八飛 △6四馬 ▲4三角成 △4二歩 ▲4四馬 と進みます。
▲5八金右~▲4八飛と馬を追ってから▲4三角成と馬を作ります。次に▲6一馬△同玉▲4一飛成があるので△4二歩と受けるのは仕方がないところ。
①△4二歩と受けた形がつらい ②▲4四馬が好位置 なので
平手(▲7五歩△5四歩……)では先手(石田流側)がやや不利とされています。
しかし香落ちという観点で見ると、香落ちが関係ない将棋になったのは上手のメリット。いや、むしろ香車がいない方がいいと言えるかもしれません。
将来的に△3一銀や△3三銀~△3四銀など銀を動かしやすいのが上手の自慢。
1一に最初から香車がいないので取られることはありません。
▲4四馬の局面は、まだまだ互角の将棋ですが個人的には上手を持って指してみたいです。
香落ち 相振り飛車の様々な形
香落ちでは上手が飛車を振ることがほとんどで、下手も飛車を振れば「相振り飛車」になります。ひとくちに相振り飛車といってもバリエーションは様々。
①△4四歩からの相振り
△4四歩と止めるのが最も多い上手の指し方。
①ー1)▲7八飛 三間飛車
上図は進行の一例。下手は穴熊囲い、美濃囲いどちらも有力です。
1一の香車がいないので端攻めをされることがないのは下手にとってのメリット。
①ー2)▲7七角 向かい飛車
こちらは下手向かい飛車。上手は8筋の交換を防ぐため△6二銀~△7四歩~△7三銀と矢倉の形を作ってから飛車を振るのが平手でもよくある進行です。
②初手△5四歩からの相振り
中飛車宣言の△5四歩。▲7六歩△5二飛に
②ー1)▲7八飛 三間飛車
②ー2)▲7七角 向かい飛車
下手は三間飛車、向かい飛車どちらも有力です。
③△3五歩からの相振り
石田流を目指した一手で上手はやや力戦志向と言えます。
③ー1)▲5六歩
▲5六歩に A)△4四歩 と角道を止めれば穏やかな展開。
以下は▲7八飛と三間飛車にするか、▲7七角(▲6六角)~▲8八飛と向かい飛車にするか。
B)△3二飛 以下▲2二角成△同 銀▲6五角△2五角と進めば互いに馬を作り合う乱戦です。
③ー2)▲7五歩 相三間飛車
③△3五歩に対して他には3)▲6六歩(角道を止めてやや守勢)、4)▲2二角成△同 銀▲5六歩と角交換してから相振り飛車という作戦もあります。
④3手目△5四歩からの相振り
▲2二角成~▲5三角と馬を作らせても構わないという力戦志向の指し方。
下手が振り飛車を目指すなら、
④ー1)▲6六歩(角道を止めてやや守勢)
他には、2)▲6八飛、3)▲7五歩も考えられます。
この記事でもう少し詳しく書いています。
shogi81komaochi.hatenablog.com
⑤△4二飛からの相振り
角道を止めない四間飛車。
下手が相振りを目指すなら候補手は▲7五歩、▲6八飛、▲6六歩、▲2二角成ぐらいでしょうか。
上手も四間飛車のまま戦うのか、△3二飛と振り直して戦う指し方も考えられます。
香落ち 石田流③ vs▲2五歩~△3六歩の仕掛け~
初手から
△3四歩▲7六歩△3五歩▲2六歩△3二飛▲2五歩△3六歩
今回は△3六歩と仕掛ける指し方を検討したいと思います。
▲同 歩(▲4八銀は後述)に対して石田流側は有力手段が3つ。
1)△同 飛(鈴木流)
2)△6二玉
3)△5二玉
平手の定跡手順をベースに、香落ちがどのような影響をもたらすのか考えていきたいと思います。
1)△同 飛(鈴木流)
▲2二角成△同 銀▲4五角△5四角
(平手で)△8五歩に対してすぐに▲7四歩と仕掛ける手は鈴木大介九段が初めて指し、石田流に革命をもたらしました。
さて、△5四角と合わせた局面は ①▲同 角 と ②▲3六角が有力です。
①▲同 角△同 歩▲2四歩△同 歩▲1二角
▲1二角は香落ちの隙を突いてやってみたい手です。
その前に▲4五角△5四角▲同 角△同 歩と5筋を突かせた(=傷を作らせた)のは終盤に生きてくるという判断です。
△3三桂▲2一角成△3一銀(結果図)
結果図というには中途半端ですが、ここから先も手が広くて難しそうなので一旦投げます。
馬を作って下手好調に見えますが、△3一銀と引いた局面は手持ちの角も大きく、案外バランスがとれていそうです。
次に検討する②▲3六角との比較は難しいところ。
②▲3六角△同 角▲4八金
4七の受け方は(平手では)金を真っ直ぐ立つのが最善とされています。
△5五角▲6六歩
▲4八金の局面は△3三角や△5四角も有力です。
▲6六歩は手筋の受け方で、△同 角と取ると▲2六飛△3五歩▲3七歩で石田流側が失敗。
△5四角▲7八銀△6六角▲7七桂△3三角
▲5六歩△7四歩▲3四歩△4四角▲2四歩△同 歩▲同 飛△2三歩▲2五飛(結果図)
長手数進めましたが、一応定跡となっている手順です(双方変化の余地あり)。
(平手で)鈴木流があまり指されなくなったのは、この変化が振り飛車側があまり自信を持てないから……と思っているのですが合ってますかね?
さて香落ちという観点で見ると、このような展開になると香落ちが全然関係ない将棋とは言えそうです。
結果図からも一手一手が難しい戦いが予想されます。
個人的には居飛車(下手)もち。
2)△6二玉
2)△6二玉は この先検討する 3)△5二玉 より玉が一路遠いことがメリット。
デメリットは4三の地点を守っていないので▲6五角が生じること。
対して①▲3八飛 と36の歩を守るか、②▲2二角成△同 銀▲6五角 が有力です。
①▲3八飛
△8八角成 ▲同 銀△2七角
▲3八飛に対して(平手の)実戦例で指された△3四飛~△2四歩という筋は▲1二角があるので成立しません。
△8八角成~△2七角と攻めるとどうなるでしょうか?
▲6五角△3八角成▲同 銀△3六飛▲4三角成△3二銀▲4四馬△2八飛(結果図)
▲6五角に対しては△3六角成や△3六飛、△7二銀も有力。
本譜はシンプルに△3八角成から△3六飛と捌く手順。
さて、結果図。
上手は1一に香車がいないことが有利に働いています。
形勢は難しいですが、気分は上手ペースですね。
②▲2二角成 △同 銀 ▲6五角△3六飛
▲3七歩△3五飛▲4三角成△5五角▲2一馬
▲4三角成に対して△4五飛▲2一馬△3一金は▲1二馬と逃げられてしまいます。
△5五角▲2一馬に△3一金▲同 馬△同 銀は手厚く▲6六金と打って居飛車よし。
△9九角成 ▲8八銀 △8九馬 ▲2二馬 △6七馬(結果図)
上手は桂香を、下手は銀桂を駒台に乗せました。
駒割りとしては、銀と香車の交換。
これが平手だと最後1一の香車を取られてただの銀損で振り飛車が圧倒的に不利ですが、香落ちだとバランスがとれた局面でしょうか。
この変化は香落ちが上手に有利に働いていますね。
思ったより記事が長くなってしまったので、
△3六歩▲同 歩 3)△5二玉
△3六歩に▲4八銀 の変化は次回へ。
香落ち 石田流② vs▲2五歩~升田式石田流~
前回からの続きです。
shogi81komaochi.hatenablog.com
初手から
△3四歩▲7六歩△3五歩▲2六歩△3二飛▲2五歩△6二玉▲4八銀△7二玉
▲6八玉△3四飛▲2二角成△同 銀▲7八玉△8二玉▲8八銀△7二銀▲2六飛△3二金▲9六歩△9四歩▲7七銀
香落ちにおける「升田式石田流」の指し方を検討していきます。
上手の22の銀の活用するルートは主に、
①△3三銀~△4四銀 ②△3一銀~△4二銀 の2つ。
①△4四銀
△3三銀▲4六歩△4四銀▲5八金右
下手は金を38に上がる、飛車を浮かないなど駒組みの仕方も色々あるところです。
本譜は一例です。
△3三桂(?)▲2一角
ついうっかり△3三桂と跳ねたくなってしまうところですが、▲2一角が生じます。
11に香車がいないので△4二金に対して▲1二角成と成れます。これは駄目ですね。
△5五銀▲4七銀△5四歩▲6八金上
今度は△3三桂に代えて△5五銀としてみました。
△5四歩のところ△4四飛(次に△3三桂と跳ねる狙い)には、▲5六歩△6四銀▲6六角があります。
さて▲6八金上とした局面ですが、上手の動かす駒が難しいのではないかと思います。
△6四銀とバックすると▲5六銀も気になりますし、△7四歩も自玉が薄くなるので指しにくいです。
「左桂」が使えないと駒を捌く展開に持って行きにくいですね。
②△3一銀
△3一銀▲4六歩△4二銀▲5八金右
△3三桂▲1六歩△4四歩▲2一角
▲1六歩は△1四角に▲1七桂を用意して必要な一手です。
△4四歩は△4三銀~△5四銀の活用を目指した一手ですが、またしても▲2一角の隙が生じました。
さて、誘いの隙か真の隙か?
△4三銀は▲1二角成。
△3一銀として▲1二角成には△2二金▲1一馬△5四角で次に△2一金と馬を捕獲できるので上手良し。
……と思いきや、△2二金の局面で▲2四歩!という手があるんですね。
この手を見たときはびっくりしました。
以下△同 飛▲同 飛△同 歩▲3四馬で下手が良さそうです。
そもそも▲2一角△3一銀の局面は下手の角が死ぬことはないので、じっと▲4七銀でも上手がまずそうな気がします。
少し戻って△3三桂と跳ねる前に△4四歩~△4三銀~△5四銀を優先すれば▲2一角と打ち込まれることはありません。
△4四歩▲4七銀△4三銀▲5六角
上手からすると▲5六角も気になる筋です。
以下△4五歩▲同 歩△3三桂▲4六銀という感じは少し上手が無理をしているような……。でもこれぐらいはいい勝負でしょうか。
はい。今回の記事はこの辺で終わりとしておきましょう。
今回検討した感じでは、上手は角を打ち込まれる隙が多く苦労が多い将棋という印象を受けました。
(おそらく強い人がやれば綺麗に捌けるんでしょうが)
逆に下手は、離れ駒を作らず飛車交換(44角の筋など)に注意して慎重な駒組みをすることが序盤のポイントと思います。
個人的に上手を持つなら、▲2五歩に対して升田式石田流よりも△3六歩や△3四飛から激しい将棋を目指したいですね。
平手と同じように進んだとき香落ちの差が何をもたらすのか、また検討してみたいと思います。
shogi81komaochi.hatenablog.com